おいおい読唇術をつかえというのか・・・。
昼休みが終わる寸前、会社の庭先の散歩から戻ってエントランスを入る。脇のラウンジに顔見知りの小姑娘が仲間と雑談をしていた。軽く挨拶をすると、声を出さずにゆっくり何か一言口にした。し終えるとにこっと笑いかけてきた。実にかわいらしい。若い頃の台湾人タレント・ビビアン(徐若瑄)に似ている。私も思わずにこっと微笑み返しである。彼女も彼女だが、私も私である。幹部の人間がこんなに軽くていいのか、新入りの小娘は幹部にこんなに親しげにしていいのか・・・。
席に戻って一寸気になった。彼女の、口に出さずに語りかけた口元が、もちろん私は読唇術なぞできはしない、それでも何となく理解できそうな感じになった。彼女は三回口を動かした。三つの漢字、簡単ではっきりと意図した言葉、想像しただけで身震いしてしまう。まるで映画のなかにいるようだ。かくも各様にこちらの女性は自分の意志をはっきり主張する。真意なのかおちょくっているのかはどちらでもいい。実に楽しい。
半年前、癌でご主人に先立たれた若き未亡人、彼女は私の耳元でささやく。「ミン南語(福建省系地方語)教えましょうか?」。ミン南語に教科書はない。口から口、マンツーマンでないと学べない。しかし彼女は危険だ。あの豊満な肉体には打ち勝てそうにない。一人廈門にやってきて金を稼いでいる若き元看護婦、私の健康管理についてインタビューしたあと、五月に国に帰ったら、名産品さし上げますと語り、結局帰らなかったのでごめんなさい、私の携帯これこれです、電話くださいと。何が目的なのか、私には理解しがたいが、実に楽しい。
会社の女性たち、台湾人幹部にそんな振る舞いは見せていない。どうも私だけのようだ。私が日本人だからなのか、取っつきやすいのか。そんなこんなを見かねてか、課長はしきりに「会社の女性にだけは手を出さないでくれ」と懇願する。なら女友達を紹介してくれと切り返している。
[ 写真: 言葉を口に出さず語りかけたビビアン(徐若瑄)似の小姑娘、インターネットでビビアンの写真を探してみた。確かに似ている。大きな二重にたれ目がちなところ、一寸突き出した口元が実に似ている。 ]
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