・・・ 昭和六年、日本植民地政策の最盛期に、少年小説作家の山中峯太郎は「亜細亜の曙」を発表する。本のなかで主人公の陸軍将校本郷義昭はインディー・ジョーン ズばりの冒険活劇をみせてくれる。ジョーンズとのちがいは本郷が鉄の意志をもって「国家の危機」を救ってみせるところにある。アジアの開放を望む本郷は中 国人に向かって号ぶ。「聞け!支那人諸君!諸君は日本帝国の真精神をいまだ知らず、○国に従ってみだりに亜細亜の平和を破る。めざめよ中華国民!たって日 本とともに亜細亜をまもれ!」・・・ photo:(C)Eiji KITADA
テレビで見る現在の上海は異様としか思えない。まるで万国博覧会のようだ。
十年前の上海はまだ、アンドレマルローが、金子光晴が、蒋介石が、「太陽の帝国」の作者バラードが愛した上海の面影は残っていた。そこには20世紀前半に 上海を埋め尽くした建物が残されていたから。薄暗く、雑踏と猥雑さの匂いが残されていた。また、外国の観光客にもそれで売っていた。今の観光客は上海で何 を見るのだろうか。
1985年だったか、一冊の本が出版される。「宋王朝」という宋家三姉妹について書かれた本だ。長女は中国金融界を牛耳った男の妻、次女は孫文の妻として 中国人民に操を捧げる、三女は蒋介石の妻、彼女たちを中心に激動の中国の歴史を描いた本として有名である。出版前、この本の内容が知られるようになると、 作者は見えない影からいろいろな圧力を受ける。刺客が指し向かれたとか、終いには出版元からすべて本を買い取ってしまえという話もあったらしい。
原因は上海時代の蒋介石の行状が描かれているからだ。嘘か本当かは判らないが、蒋介石はやくざの庇護の元で権力を維持してきたというのだ。英文の本の作者 紹介欄には、資料の出所にはFBIからのものもある、と記されている。台湾の一部では大騒ぎだったようで、中文に翻訳され台湾で出版されたものには、原本 にあった箇所がいくつか削除されていた。やはり上海はよほど魅力あふれる都市だったのだろう。
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