まさか台北で演芸小屋の扉を押すとは思って もいませんでした。ホテル近くのビル、三階にその小屋はありました。十人も立てばいっぱいになりそうな舞台、その周りを取り巻く五十ほどの椅子。舞台には 子供(に見えました)と中年の男性、それにやたらと背の高いアラブ系の男が・・・
週末に退屈していたある日、ホテルの女性従業員の一人が「今日は面白いところに連れていってあげる」とでかけたのが演芸小屋でした。満員の席、大声で掛け合う三人、陽気な笑い、どこの国でも変わりない風景です。とくにアラブ系の男が話をすると、小屋全体がどっと沸きます。そのころの私 は、何とか標準語が理解できる程度でしたが、彼らの話は台湾語でした。そんな私に、彼女は掛け合いの面白さを標準語に翻訳して同時通訳してくれます。私の 笑いはいつも一テンポ遅れましたが、それでも芸人たちの芸域を満喫できたのは彼女の才能のおかげでした。
このアラブ人、台湾生まれの台湾育ち。台湾語と標準語が使い分けられます。二つの言語の似通った発音を上手くやり取りしてお客の受けをとっていました。標準語ではなんと言うこともない単語も、台湾語に読みかえればもう艶笑話、下ネタ話。充実したひと時でした。
もう二十年も前のことです。今はもう小屋はありません。
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