
元ボスの隣の部屋には、三十年来の知人の総顧問がおいでになる。「疲れた、疲れた」と口癖のようにつぶやいている。新しい事務所の電話番号と名刺をわたしにいったところ、「血色いいね!」と一言。この言葉は私にはうれしい限りだ。規則正しい生活をおくっているとはいえ、健康に注意していることもないし、体を動かしていることもない。それでも「血色いいね!」はありがたい。三ヶ月間の嵐のような一幕が終わり、幕間の退屈さに体も鈍りそうなもの、そうならないよう注意を怠らないことだ。
国慶節を間近にひかえ、結婚式があちらこちらで開かれるらしい。新事務所の女性もそのうちの一人。手書きの招待状と、パン屋のアンデルセンの引き出物を手渡された。いくら包んだらいいか、いろいろな人に聞き回っているところだ。それにこちらの結婚式というのがどんなものか楽しみにしている。我が中文老師は休みの間に三つの式に呼ばれているといって嘆いていた。彼女の給与を考えればあまりに出費が大きいからだ。
[日の落ちるのが早い。夕方、厨房の窓を通して西日が食堂の壁まで達している。秋口になり気温も湿度も日ごと下がっている。事務所にはセーターを持ち込んでいるのが他の人には不思議に見えるらしい。ここではおかしい日本人としての評価が定着している。]
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