Monday, June 30, 2008

[廈門] 事故の行方

目の前で人身事故が起きた。

週末土曜の午後、遅い昼食をとりに湖畔の珈琲店に出かけた。隣はカレー店、台湾人が開いた日本風のカレーが評判の店。珈琲店はその系列店。カレー店の店内は窮屈で一人で訪れるには落ち付かない。珈琲店のカレーメニューは隣からケータリングされる。デッキテラスもよしゆったりした店内もよしでテラス日和だった。その日は風と日差しは強いものの、湿度が低く、いつもなら歩くだけで汗が噴き出すのに、今日はそれがない。気分がいい。

カツカレーと、なんとも日本的な注文を口にし、食後にアールグレーティー、かなり奮発した昼食となった。このあたりは高級住宅地、デッキテラス前の歩道を行き来する連中も見かけは十分セレブである。女性はサングラスと着飾った衣装、そして惜しげもなく長い脚をあらわに。男性といえば、世界じゅうの高級車のキーを指先でくるくる回しながら目当ての店に。そんな姿を眺めながらの昼食だった。

湿度が低いのだ。デッキテラスに落ちる影も濃い。お茶を終え、何をするでもなく、周りの風景に目をやっていた。一台の黒塗りのアウディが止まり、運転席のドアが開くと同時にガシャ!という音。カブタイプのバイクが道の中央で横転した。何かを配送途中だったらしい、段ボール箱が運転していた若者とともに横たわっていた。アウディのオーナーは、半開きのドアの中、運転席で携帯片手にメールを打っている。バイクの若者がどうなったのか、彼はまだ見ていない。

若者は体をくねらせている。カレー店の従業員や道行く人が駆けつけ彼を立ち上がらせようとしている。アウディのオーナーが運転席から出て若者の片腕を引き上げるも、途中で道端に移動した。若者は動けないわけではなさそうだ。道の中央で、バイク脇に腰をおろし携帯で誰かに連絡を入れている。アウディのオーナーも同様誰かに連絡を入れている。

若者の怪我の具合はアタシの席からは分からない。時間が過ぎていく。救急車を呼んだ気配はない。警察はどうだ。現場はそのままで時間が過ぎていく。若者はカレー店の道端のデッキチェアに腰をおろしている。アウディからは小さな子供を抱えたご婦人が車の外に出た。若者のボスらしい人間があわただしく駆け付けた。若者に事情を聞いてアウディを指さしながら何か大声を出している。

風景は動かない。アウディのオーナーがカレー店の中に入っていった。かなりの時間が過ぎ、そして車の脇に戻っていった。何をしに入ったのかはわからない。

ようやく公安の車とバイクがやってきて加害者と被害者の話を聞いている。救急車は来ない。アウディの脇で公安がオーナーに事情を聴いている。しばらくすると公安の車が去っていく姿が見えた。バイクの若者もアウディのオーナーの姿も消えていた。取り残されたご婦人が抱える小さな子供の鳴き声が聞こえる。

アウディの鼻先に白塗りのBMWスポーツクーペが止まった。男が降りてきてアウディのダッシュボードを開いて何かを探している。探し当てたのか、その小さなものを手に携帯をかけている。誰かに何かを伝えているようだ。そのBMWも消えた。

アタシはそっと携帯で現場写真を撮った。西からやってきていた黒く厚い雲が通り過ぎ、急に蒸し暑くなった。汗が噴き出し、気分が悪くなった。そして席を立った。事故の行方がどうなったかは知らない。

事故現場の様子をできるだけ客観的に書いたつもりである。しかしアタシはこのひと幕の出来事、動かず開かず眺めていた。なんということだ。携帯に目をやりながら、バックミラーに目もやらず運転席のドアを開け、後ろから近づいていたバイクを横転させる。横たわる若者に目もやらず運転席でメールを打ち続け、若者の身を案じることなく、周りの人間が手助けに駆け付けるとおざなりに、それも強引に片手をひっぱりあげる。友人と思われるBMWの男が駆けつけ、彼は知り合いの公安あたりに事故の状況を話していたのだろう、簡単に想像できる事故の行方、その結末。アタシは動けなかった。ここでアタシは一介の外国人にすぎないのだ。

[ MEMO: やけに静寂っぽい写真のような気がする。 ]

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