Wednesday, October 29, 2008

[廈門] 二人の"本郷義明"

もう十六年前のことになる。ある雑誌で東アジアのあれこれについて連載記事を書いた。そのなかに中国についての一文がある。ここでのキーワードは「中国の開放」。しかし今現在この文を読んで感じるのは「余計なお世話」。悠久の歴史を持つこの地は、外国人にとって一筋縄でいくものでない。ただただ「中華」の意味を知らしめされることになるのがオチだ。余計なお世話だが、その際の一文を再録。

「アジアを夢見る-上海1945」

「 日本植民地時代の始まりとその終りに、上海を舞台とした二人のヒーローが登場する。同性同名で名前を本郷義昭という。二人は時代を共有することもなければ、中国に対する世界観もまったく異なっていた。しかし、アジアの解放を望んでいたことで二人は共通している。

ひとりは陸軍情報部の将校として日本帝国主義による中国の解放のためにアジアを駆け巡る。もうひとりは終戦まぎわの上海に特派員としてやってきて、敵対する民族の男女がお互いを理解し合うことによる解放を体験する。

昭和六年、日本植民地政策の最盛期に、少年小説作家の山中峯太郎は「亜細亜の曙」を発表する。本のなかで主人公の陸軍将校本郷義昭はインディー・ジョーンズばりの冒険活劇をみせてくれる。ジョーンズとのちがいは本郷が鉄の意志をもって「国家の危機」を救ってみせるところにある。アジアの開放を望む本郷は中国人に向かって号ぶ。「聞け!支那人諸君!諸君は日本帝国の真精神をいまだ知らず、○国に従ってみだりに亜細亜の平和を破る。めざめよ中華国民!たって日本とともに亜細亜をまもれ!」

もうひとりの本郷は、コミック作家の森川久美が昭和末期に描いた「上海1945」に登場する。主人公は「大和魂がある限り日本は負けん!貴様は日本人の恥だ ! !」といわれ続けられた新聞記者である。 特派員の本郷は、日本が無条件降伏したとき、「死に損なったよノノ 」とつぶやく。彼にたいしてどうしても素直になれなかった中国人の女友達は、抗日戦線の友人からいわれたと、はじめて見せた恥じらいで彼に伝える。 「新シイ中国ノ建設トイウノハナンダト思イマス?ソレハアナタヤ私一人一人ガ、自分ノ心ノママニ愛スル人ト共ニ幸セニ暮ラセルヨウニスルコトデス」。

二人はアジアを夢みている。その中心にとてつもなく大きい中国がある。その大きさのためか、民族のためか、われわれは中国を捉えきれないでいる。本郷義昭のこだわりもそこにあるような気がする。上海は二人の本郷が熟知している場所である。二人の間には二十年の隔たりがある。にもかかわらず上海の風景に変化はない。二十世紀初頭から三十年まで、英国を中心としたヨーロッパ列強は上海の風景をつくりあげた。二人の本郷を生みだした山中も森川もこの風景から逃れることはできない。いやこの風景があったからこそ、本郷はヒーローになりえたともいえる。・・・」

[ MEMO: 上海と違いここ厦門は濃い緑で覆われている。それだけでヒーリング効果はあるのだが・・・ ]

[今日のBuddha Bar]
ストックホルム生まれのグリーク・ポップシンガー、NinoのModern Laikaな "Amor, Amor"。
"Modern Laika" は伝統的なギリシャ音楽にモダン・ミュージック、ポップスやダンスをミックスしたもの。一寸レゲエっぽい一曲。しかしそこは地中海、決して中南米にはなっていない。

2 comments:

fumanchu said...

手元に本郷義昭さんの自伝があります。

実録アジアの曙
山中峯太郎
二見書房1964
と言う本で、本郷義昭さんは本名の山中峯太郎で書いておられます。結構面白いです。
http://dehoudai.exblog.jp/9789982/
ご参照。

李烈鈞など、帝国陸軍士官学校への清国留学生とともに、孫文先生の寓居へ出入りしていた筆者は、民国2年呼びかけに応じて蜂起した漢口要塞に駆けつけます。この頃の「軍閥」というのは三国志の時代から変わらない「諸公」なのですね。

ひと回り後の第一次世界大戦後、蒋介石さんはやはり大日本帝国陸軍士官学校へ留学されますが、その後の彼の歩みは、やはり三国志の時代から変わらない「諸公」からの天下統一です。実は大日本帝国の国のあり方は、特命全権大使で米欧を回った岩倉具視卿が、18世紀までの絶対王政を手本にしていたフシがあります。
http://www.tcp-ip.or.jp/~ask/dh0801/index.html

ところが同じ時期、蒋介石さんの御同僚の周恩来さんとか、鄧小平さんはフランスへ留学されます。戦後の疲弊と、後にナチスを生み出す、ドイツへの戦時賠償金,国際連盟創立などをご覧になった彼らは、同時に米国の姿もフランスから眺めています。近代国家としての天下統一、という現在までの中国の流れは、この時の彼らのまなざしに負うところが、大きいのではないでしょうか。

Anonymous said...

貴重な資料ありがとうございます。

私は結構「アジアの曙」を楽しんで読んだ想い出があります。その昔、左翼系の評論家が、この本を批判的に書いていたのをみて、憤慨した思いがあります。こんな面白い本を!と。