Sunday, April 13, 2008

[廈門] 「マッチ売りの少女」

アタシは、一年数か月ぶりの母国で、これまでになかったように動き回ってきた。国に戻ると、国はあれやこれやと日本人としての義務を果たしなさいと囁いていた。例として、運転免許証の期限が切れていた。しかし、住民票がなければ運転免許証の更新はできない。アタシは日本に住所がなくなっていたのだ。そこで届の手続きをしてきた。前の住まいは「中国」である。

異動届を役所に提出すると、健康保険証がもらえることになるが、同時に支払い義務が発生する。健康保険証がなければ、高額医療保障はしてもらえない。で、安心のため、健康保険に再加入したいと役所に聞いてみる。窓口の男性は、「あなたはすぐに長期間海外に出かけるのですよね、ならば加入の必要はありません、保険料の支払い義務もなくなります」。

つまり日本にいない人間には日本政府は面倒は見ませんよ、と言っているのだ。あたしは帰国前日、役所に出かけて行き、免許証取得のために異動届を出したばかりだが、再度異動届を出してきた。異動先は「中国」である。

戻った「中国」、最初に目にしたあるブログの三面記事に驚愕した。劇作家別役実の「マッチ売りの少女」みたいな出来事が組写真で紹介されていたからだ。ある都市のある廃墟の裏庭、日中暇を持て余している老人相手に、若い女性二人、一人一元でジーパンの中をのぞかせているのだ。この記事をしたためた人間、地元の新聞社に電話を入れ、取材しないのかと問うも、その手は記事にできないと断られたので、とコメントを入れている。

ブログの読者からは、「やらせでないの?」というコメントも。確かに写真が鮮明すぎる。それでも迫力十分である。読者の中には「心が痛み涙がこみ上げる」という一文もあった。たとえやらせが一部にあったとしても、このような出来事がまだ残っていることをアタシは否定できない。なぜなら、アモイにやってくる多くの出稼ぎ労働者の中には、信じられないような額で、現場労働者がたむろする一角で、春を売っていると聞いているからだ。

アタシは農民の苦労、苦悩、貧困について知らない。一時期には、このような出来事もあったに違いない。でなければ別役実は本にできなかったのではないかと思う。たとえそれがスカートの中のマッチ一本の瞬時の出来事(別役実「マッチ売りの少女」)でなくても。アタシは、この記事を紹介すべきかすべきでないか、しばらく考えていた。しかし現実である。多くの人間が見捨てている現実である。目を向けようとしない現実である。そしてこれは中国だけの現実でなく、われわれ皆が目をそむけてきた現実であるのだ、と考えた。

中国のブログは自由に投稿ができる。ひとりの意見一つの意見も取り上げられる。国体にかかわること以外ならばほぼ許されている。その結果、社会面、つまり三面記事には驚くような出来事が写真入りで紹介される。薬で朦朧とした半裸の女性が高層マンションのテラスから飛び出し、宙ずりになったままの写真。やはり高層ビルから飛び降り自殺を図った少女の連続写真。足の指を猫にかみちぎられた幼児の患部の写真、などなど残酷すぎて目をそむけたくなるものも多い。

日本では靖国神社を訪れ、遊就館の展示に国体維持は絶対だという歴史観を教えられた。本来ならそのことを記事にしたかったのだが、中国で重い現実を見せつけられてしまった。

[ MEMO: 写真は全部で15枚の組図でできていた。一枚づつに撮影者のコメントが載せられていた。赤いセーターの女性のほかにもう一人の女性と、手配師の三人組でこの商売は行われたらしい。 ]

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