Thursday, May 5, 2011

[台北] “退潮” - 沈黙の反石化開発記録映画


先日こちらの公共放送・公共電視台で一本の記録映画が放映されました。タイトルは「退潮」(引潮)。もともと記録映画が好きでしたので、TV番組表からそれらしいものを探し出しては見るようにしていました。目にしたのは「紀錄觀點」という記録映画番組。「退潮」という”らしくない”題名に引かれました。見るまではどういう主題を扱っているのかもわかりませんでした。出だしはどういうことのない台湾の寂れた小さな町筋に立つ教会をクレーンを使って撮ったシーンです。オバサンが教会の歴史、つまりその街の歴史を語るところからはじまります。

 未明、出支度をするオバサン。荷台を牛に引かせて出かけます。カメラはその荷台から目を横にそらすことなく、前を向いたままです。町を外れ、畑を横切り、堤防を越えて海に向かって移動します。どこまでも遠浅な海を沖へ沖へと向かいます。そこは牡蠣を養殖している蠣田、と呼ぶんでしょうか、こちらのスーパーに出ていました、引き潮のときだけ作業のできる干潟の蠣田・・・。この町は昔から干潟で生計を立てていた漁村です。
画面はその干潟の風景、汐の満ち引き、引潮のときだけやってきては泥の中の餌をついばむ水鳥たち、顔を出す無数の蟹の姿、そして干潟で働く漁民一人ひとり を丁寧に追っていきます。移動手段に使われる牛が乾いた場所を探して横になります。犬たちは主人の傍らについてまるで手助けをしているように見えます。静 寂な映像、ただただ強い海風が風防をつけたマイクも突き抜けて収められています。オジサンは斜めになりながら前に進みます。これらの映像は秀逸です。まる で環境映画のようですが、ここでは人と干潟の係わりが主役、それがこの映像の狙いでしょう。

番組の後半を過ぎたところで町に建てられている豪華な廟の場面になります。住民投票の風景です。私はここで始めてこの干潟が石油コンビナート建設用地だということに気がつきました。ニュースで國光石化計画建設反対の抗議集会やデモの報道があったのは知っていましたが、この地だとは建設の是非を問う住民投票の映像が出てくるまで分かりませんでした。
[訂正]  この地・芳苑鄉の干潟は國光石化計画建設用地に隣接する場所でした。もし開発されると、北に六軽石油コンビナート(建設済み)南に國光、一年を通して干潟が空気が汚染され続けることになってしまいます。

「退潮」は公共電視台自らの企画でつくられました。監督は台湾の自然環境を撮り続けている柯金源。国の石油化学コンビナート計画が自分の生まれ故郷に近い彰化県芳苑鄉の干潟に建設が決まったときから撮影を始めます。三年間にわたり、フィルムは300時間に及んだといいます。コンビナート建設は、当初から台湾の多くの人たちの反対を受け、敷地は二転三転、太平洋岸の宜蘭にはじまり、桃園、雲林を経て彰化県政府の強い誘致でこの地に決まった経緯があります。

当初から映像作家の柯金源がこの問題を撮り続けていることは知られていたそうで、その内容に期待する人も多かったようです。しかし放映された番組には反対運動の場面はありません。ただただ干潟の美しい姿と漁民たちの黙々と働く光景だけでした。監督の狙いは見事に成功します。反対運動を語らずに説得されてしまう。騒がしく、饒舌にならず環境問題への回答を表現したのですから。

先月22日、馬英九総統はこの地での開発計画を放棄した旨の声明をだしました。来年の総統選を見据えてのことという人もいます。次の移転先は大陸だとも言われています。誘致を強引に進めてきた彰化県政府は、この地を観光開発の拠点にしようとの計画案を練り始めたともいわれています。

2 comments:

fumanchu said...

この20年で浜名湖の水環境が急速に進んでいます。それも石油コンビナートのような「公害」型の汚染では無く、東京湾と同様の「産業+生活」型汚染なだけに、よけいに始末に負えないものです。皆気が付いているのですが、手の打ちようが有りません。湖西市議会環境委員長に「昔の浜名湖に戻らんか。」と言うと、「誰も車に乗らず、電気も使わなければネ。」
http://dehoudai.exblog.jp/i4

burikineko said...

そろそろ私たちは”ティータイム・ディスカッション”を終わらせなければならないんでしょうね。