Tuesday, June 19, 2007

[廈門・376天] 「パリ・テキサス」のように

「パリ・テキサス」、だらしない男と女の話。まともに生きることのできない女と男の話。奇才映画監督ヴィム・ヴェンダースの、あたしにいわせれば最高作品。この映画の後半、駄目男が、逃げた女房の働いているテレホンクラブで、とても切ない出逢いをするシーンがある。あたし、テレホンクラブではないが、インターネットのチャットで、一寸切ない、そんな気分を体験した。

別にあたしも彼女も、だらしないわけではない。ごく普通にインターネット上で出逢い、語り、更に語り、冗談を交わし、若い娘さんを「姐さん」、彼女は私を「小弟」と呼ぶようになる。顔も解らず、容姿も解らず、どこの誰だかも定かでない。私は老人ですよと書き込むも、彼女からは半信半疑の返事が返ってくる。

そのうち、私も彼女が本当に女性なのか、若いのか、だんだんと解らなくなってくる。彼女も「小弟、あなた狡猾よ」、と私の問いかけにいらだちを見せたりする。言葉遣いも徐々に変わっていく。冗談を飛ばす私に、彼女、丁寧な受け答えからぶっきらぼうになっていく。感情を表に出すまいとしているかのようだ。

あるとき、松たか子の歌「夢のしずく」を知っているか、歌えるかと聞いてきた。知らない、毛沢東の詩なら唱える、とからかうと、マジになって、では彼のこの詩は知っているか、という。さらにあたしは「老紅衛兵だ」「老知青だ」(昔の知識青年)、だから歌えると続けると、「嘘つき!」と怒ったりする。

チャットを楽しむ普通の若い子が毛沢東について語るのか、興味を持ったあたし、インターネットで彼女の大学を訪れる。確かに学業のいくつかに名前はあった。しかし、だからといってこの学生が彼女だとは確証できない。

その彼女が失業した。明日実家に戻るという。あたしが「じゃ、この後どうやってあなたと連絡を取ったらいいのか」と聞き返す。彼女、携帯にと。すぐに、SMSで、と断りを入れてきた。

あたし、彼女の航跡を探した。インターネット上のいくつかのキーワードを当たるも、思い当たる点にいきつかない。再び元に戻ってあるキーワードを叩くと、あるblogが引っかかった。なかには日本語で書かれた日記、そして「日本鬼子」と題した一文が。廈門で働いている一人の日本人とのやり取りについてだ。

そっと彼女にSMSを入れる。「家に戻りましたか?日本鬼子はあなたが美しい人生を送ることを期待しています」と、彼女のblogから引用した文を送った。「・・・探し当てたのですね・・・」。彼女からの返事だった。

[ 写真: あー「パリ・テキサス」とは縁も所縁もなかった。名前を借りただけでした。写真は”夢見るお月様”との最後のチャット部分。 ]

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