Tuesday, August 24, 2004

長距離列車の楊梅売り

上海での仕事を終えて、上海駅から蘇州に戻る列車に乗りました。座席指定です。私たち三人は、通路を挟んで横一列に並んでいました。出発寸前、反対側の一番 奥、空いていた椅子に滑り込んできたのは、大きな手提げ篭を抱きかかえたおばさん。席に着くや否や、何か独り言のように話を始めました・・・

疲 れていた私はうたた寝を始めたのですが、なにやら周りが賑やかになってきたようです。目を開けると、周りの人たちがおばさんの話に耳を傾けています。どう やら蘇州の先、揚州から上海に楊梅を売りにきた帰りらしい。余ってしまったのでどうだどうだと周りに売り込んでいます。おばさんの隣の女性が味見をさせて くれといって、手に二つ三つ受け取り口にします。お気に召したようで、赤と青のストライプのビニール袋に楊梅を詰めてもらいお金を支払いました。

私たち同行の一人が、それに同調したように楊梅を注文しました。いくつかこちらにも回ってきたので口にします。どうせ小遣い稼ぎの物売りとタカをくくって いたのですが大違い、美味しい。それから後はおばさんを囲んでおばさんの楊梅の話に周りの者みなが聞き入ります。美味しい楊梅を作り出すのがいかに大変な ことなのか、そしてこの美味しい楊梅の木が植えられている山を買いたいといってきた人の話。断ると、ではこの木一本十万元で買いたいといったこと。それで も断ったとのこと。百姓の生活は実に厳しい、それでも楊梅の山を手放すつもりはないと続けました。

最初に購入した女性もまた、おばさんの楊梅をいたく気に入ったようで、おばさん、次はいつ上海に来るのか?来ないなら送ってほしいと頼んでいます。それが駄目なら山まで買いにいくとも。楊梅今が季節だそうで、あと一週間しか味わうことができません。

同行の台湾人が、私のことを指差しておばさんに言います。
「この人は日本で百姓しているんだよ」
私は同調してうなずきます。
おばさん、驚いた顔つきで私を覗き込んでから、疑りぶかそうな眼差しで言いました。
「本当かい?嘘だろ。百姓は百姓がちゃんとわかるんだよ。あんたは違う!」

ごめんなさい。そしてここにも本当に自分の愛する農産物を持っている人がいる。金拝主義全盛の中国で、パール・バックの「大地」にでてくるようなおばさんに出会え、ある種の感動を覚えました。

蘇州に戻り、夜の会食の席。投資家の一人の女性が街中で手に入れたお土産をみんなに振舞いました。高価だったといってテーブルにあがったのは楊梅。先ほど 食したばかりでしたが口にしてみました。思わず口をついて出そうになったのが「なんだ?ぜんぜん旨くない!」。台湾人の友人が諭すように私を見ながらうな ずきました。そう、おばさんの楊梅、すばらしい作品だったのです。

No comments: